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『虹を しずめた 魔法使い』
深い森の奥に、
ひとつの湖がありました。
その湖には、水の精が
ひっそりと暮らしています。
ある日、魔法使いが
その姿を見つけました。
「……きれいだ」
その声に、 水の精はふりむかず、 静かに水の中へ消えていきました。
それから毎日、
魔法使いは湖に通います。
「きみに、会いたい」
けれど、その声は
水の手前で、とまったまま。
「そうだ、虹で誘おう」
魔法使いは
湖の上に虹をかけました。
七色の光が、湖に ゆらぎます。
すると、水の精が現れ、
小さくつぶやきました。
「……きれい」
待っていた魔法使いは思わず叫びました
「会いたかった!」
その瞬間―― その声に驚いて、
水の精は、水の中へ消えてしまいました。
あとには、 光だけが残りました。
「どうして、届かない……」
魔法使いは、虹をつかみ、
そのまま湖へ投げ入れました。
七色の光は、 しずかに、水の中へ沈んでいきました。
それから、その湖は――
光にふれるたび、 虹のように、やさしく輝きます。
届かなかった想いが、 水の中で、光りつづけているのです。
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